自転車の点滅式前照灯は法規違反?

今回は、少々マニアックな話題です。ただ、自転車乗りには、すっきりしない問題であることは確かです

自転車の前照灯に点滅式のライトを使用しても法律上問題ないでしょうか。

自転車などの車両は、夜間の道路上では灯火を点灯しなければなりませんが、自転車についての具体的な規制内容は、各都道府県の公安委員会規則で定めることになっています(道路交通法52Ⅰ、道路交通法施行令18Ⅰ⑤)。そこで大阪府道路交通規則第10条を見ると、前照灯については「夜間前方10メートルの距離にある交通上の障害物を確認することができる光度を有する」ことが必要とされています。ちなみに、この規定に違反すると5万円以下の罰金に処せられます(道路交通法120Ⅰ⑤)。

 近ごろ、前照灯として点滅式のLEDを付けた自転車をよく見かけるようになりました。こうした点滅式のライトであっても灯火を「点灯」したことになるのかが問題となります。点滅式のライトの場合、灯火の付く時間と消える時間が交互に繰り返されるため、消えている時間については点灯義務違反になるのではないかとも考えられます。しかし、点滅式のライトは通常のライトと比べて外部からの視認性が高いことは確かなので、一概に点灯とは言えないとするには無理があるでしょう。法令が前照灯の点灯を求めた趣旨に沿って実質的に考える必要があります。

 先ほどの大阪府道路交通規則の規定の仕方を見ると、前照灯に期待されている役割の一つとして、自転車の前方を照らして運転者の視界を確保することにより、障害物や歩行者、他の自転車などとの衝突を未然に防止することが挙げられます。ここで、前照灯は、自転車の運転者自身に注意を喚起するための手段と捉えられています。これに対して、点滅式の前照灯は、他者からの視認性は高まるものの、運転者の視界の確保という点では常時点灯式のものと比べて見劣りがします。つまり、点滅式の前照灯は、自転車の運転者よりもむしろ相手方の注意を促すことによって事故を防止しようという点に重点が置かれています(※1)。
※1 点滅式の前照灯は、外部からの視認性が高まるとしても、常時点灯式と比べて位置やスピードを読みづらいという問題点が指摘されています。もしそうであるなら、相手方の予想を超えて自転車が接近することで相手方に危険な思いをさせたり、反対に必要以上の待避を相手方に余儀なくさせたりといったことが起こりえます。

 このように、点滅式の前照灯は、法令が予定している前照灯の機能からずれている部分もありますが、点滅式だから一律に法令違反ということはできません。点滅式であっても前方10メートルの障害物を確認するのに十分であれば違法とはいえないはずです(大阪府の場合)。
 問題は、現に自転車が走っている具体的な時間・場所においてこのような前照灯の機能が果たされておればよいのか、あるいは、真っ暗闇の中を全速力で疾走するような場合を想定して、そのような場面でも上記の機能が発揮されるものでない限り、適法な前照灯と認められないのか、ということです。たとえば、大阪市内の都心部では、夜間でも街灯などによって相当な明るさが保たれていますので、それと反比例して、前照灯の明るさが多少控え目であっても前方の障害物を確認するのに不都合はありません。また、一口に点滅式と言っても、消灯時間が短いほど、また、自転車の速度が遅いほど前方の確認を確実に行うことができます。

 思うに、道路交通法が自転車の前照灯に関する規制を、各都道府県の公安委員会規則に委任している趣旨は、前照灯に必要とされる性能を一般的抽象的に規律するのではなく、地域の実情に応じて具体的に検討すべきとの考え方によるものです。そうであるなら、街灯が整備されていて夜間でも一定の明るさが確保されている地域では、前照灯に求められる条件も緩やかになり、街灯の整備されていない地域では条件が厳しくなってもおかしくありません。このような考え方を推し進めると、前照灯が法令に違反するかどうかについては、前照灯を点灯して走っている具体的な場面において、その前照灯の性能だけでなく、自転車の速度、周囲の明るさなどをも考慮して、前方10メートルの障害物を確認するのに十分であるかどうかを判断すべきであると思われます。

 以上のような前提に立つと、現場の警察官が点滅式の前照灯を取締まることは、事実上非常に難しいのではないかと思われます。点滅式の前照灯でも本当に前方10メートルの視界を確保できるかどうかは、自分が自転車に乗ってみないとわからない、つまり外部から客観的に判定できない場合があるだけでなく、そのときの自転車の速度とか周囲の明るさといった個別事情が関係してくるからです。検挙される場合があるとしても、光度があまりにも低いとか消灯時間があまりに長いため、誰の目にも危険と感じられるような例外的なケースに限られるでしょう。

 もっとも、一旦事故が起こって裁判になった場合、点滅式の前照灯がどのように評価されるかは別問題です。とりわけ対歩行者との関係では、歩行者が危険に気付いたとしても、歩行者が危険を回避する手段は限られているため、自転車の方でより早く危険を察知する必要があります。歩行者がいる可能性の高い道路上では、前照灯は常時点灯させておくべきでしょう。大阪府道路交通規則第10条を見ると、前照灯については「夜間前方10メートルの距離にある交通上の障害物を確認することができる光度を有する」ことが必要とされています。

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紹介 山本英樹
性別/男 誕生年/1959 出身地/大阪市 仕事/司法書士・土地家屋調査士 趣味/この一年は自転車がお気に入り 好きな食べ物/冬は鍋 夏はそうめん 好きな音楽/上海バンスキングの挿入曲 ドビュシー 好きな人のタイプ/わかりやすい人 

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